【中学受験の塾選び】復習主義か予習主義か

中学入試

大都市圏の難関中学受験を目指すほとんどのご家庭にとって,最終的には大手塾に入塾することがほぼ必須となりつつある現状で,一番の問題はどうやって塾を選ぶか,だと思います。合格実績を基準に判断する人もいるでしょうし,指導方法を比較したり,あちこちの体験授業を受けたりして最終的に決める人もいるでしょう。

そんな塾選びについて,今回は復習主義か予習主義かという点に焦点を当て,それぞれのメリット・デメリットを解説したいと思います。

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復習主義の塾

復習主義の代表格といえば,関東ではサピックス,関西では浜学園でしょう。合格実績だけを見れば,どちらもそれぞれの地域で独り勝ち状態です。

復習主義のメリット

・疑問を抱えたままの時間が少なく,その分の時間を復習に当てられるため効率的
復習型の塾では授業前に予習のための時間を確保する必要がないので,お子さんはまっさらな気持ちで授業に集中することができます。授業に集中し,そこで十分内容を理解・吸収できた生徒さんは,予習のための時間を徹底的な復習・演習に当てることができるため学習効率を最大限アップさせることが可能になるのです。

・スパイラル構造で何度も何度も復習を繰り返す
特に復習を徹底して行っているのがサピックスで,授業・プリント・小テスト・毎月のテストなどを通して,あたかもエビングハウスの忘却曲線に抵抗するかのように復習を繰り返します。一度学んだ分野も,時間をおいて忘れたころに必ず復習できるようなカリキュラムになっているため,授業に問題なくついていくことができていれば,自分で学習計画を立てる必要はありません

繰り返すごとに少しずつ難易度を上げていくスパイラル構造をとっているので,学習効率という面からみても,理にかなった学習形式になっています。保護者の側も,プリントの整理や課題の優先順位付けなど,自分の果たすべき役割を明確にしやすいでしょう。

・予習をしてきたときに生じる油断が少なくなる
特に小学生の生徒さんの場合,ばっちり予習をしていると「この問題は解いたことがあるから聴かなくてもいい」とか「友達の解き方は自分とは違うけど解けているから関係ない」という状態に陥ってしまいがちです。あえて予習をしないことで,授業への集中を高め,周りはどうしているのかといったことを探るアンテナを張り巡らすことができるようになります。

復習主義のデメリット

・授業についていけないと,すぐに置いてけぼりになってしまう
復習主義の塾では予習がない分,その日の授業に集中し,その中で可能な限り多くのことを吸収した上で徹底的に復習する,ということを前提に課題を出しています。ただ,これはある程度の学力がある,あるいは頭の回転が速い子を前提としたやり方であることも事実です。

基礎学力が不足している,または理解の速度がゆっくりな子の場合,授業の途中で分からなくなったら,終わりまで何をやっているか分からないまま,呆然とした状態で過ごすことになります。復習すべき内容を理解しきれていないわけですから,当然課題をこなすのに必要以上の時間がかかり,理解が追い付かないまま次の授業日を迎えることになります。

・一定以上の処理能力がないと,課題をこなしきれず,効率的な学習ができない
理解が追い付いていたとしても,家庭での学習習慣が身についておらず,処理能力がそこまで早くないお子さんの場合は,やはり課題をこなすのに精一杯になってしまいます。その状態が続くと,段々受験のための手段であった課題をこなすことが目的化してしまい,目的意識もなく,自分が何をやっているのか分からないまま,ただ機械的に目の前にある課題をこなすだけということになりかねません。

・指示待ち人間になってしまい,主体的・能動的に学習する姿勢が身につかない
特に課題をこなすのに精いっぱいになってしまうお子さんの場合,塾や親から与えられた目の間の課題をこなすだけの毎日になってしまい,自分が何をしているのかということに対する意識が希薄になりがちです。

中学受験は乗り切れても,それ以降の精神的自立が遅れ自分から物事に対して主体的に働きかけることができなくなる可能性もあります。保護者の側も一方的に指示を与えたり,希望を押し付けたりするのではなく,幼い頃から親子の間で積極的に対等な立場での対話をすることを習慣にしておいた方がいいかもしれません。

予習主義の塾

予習主義の代表格は『予習シリーズ』でお馴染みの四谷大塚です。入塾しなくても,先取り学習として『予習シリーズ』を利用するご家庭は多いのではないでしょうか。近年の合格実績を見れば,復習主義の方が大きな成果をあげているのは明らかですし,内部でも効率だけを考えれば復習主義の方が優れていると認識されている,という話を聞いたことがあります。

そうした不利とも思える状況の中で,それでも予習主義を貫く姿勢の背景にはどのような考えが隠れているのでしょうか。

予習主義のメリット

・未知の問題に対して,自分でテキストを読みこなし,解法を考える習慣が身につく
予習をするということは,未知の問題に対してじっくり時間をかけて自力でテキストを読み込み,解法を組み立てていく,ということです。これは,まさしくこれからの時代に必要とされている問題解決能力を養うことに他なりません。こうした能力は中学受験はもとより,大学生・社会人になった時に最も必要とされるものですから,長期的視点から見ると非常に重要なものと言えるでしょう。

・疑問を抱えた状態でも考え続けることで,問題解決のための知的体力・思考力が鍛えられる
疑問を抱えた状態で諦めずに何時間・何日も,場合によっては何週間・何か月も考え続けることは,大人でも相当の知的体力・思考力を必要とします。小学生の段階からこうした訓練をしておけば,大学生・社会人になって正解のない問いに直面した時にも粘り強く取り組み,解決策を見出すことができるようになるでしょう。

・疑問が解けた喜びが向上心・知的好奇心につながる
長い間考え続けていた疑問が解けた時の快感は,ゲームや漫画から得られるそれとは比較にならないほど大きいものです。そうした喜びを多く味わうことで,向上心が育まれ知的好奇心がより一層刺激されるようになるでしょう。

予習主義のデメリット

・効率的ではない面がある
復習主義のメリットの裏返しになりますが,疑問を抱えたまま考え続ける時間が長くなり(本来それはとても大切なことです),復習・演習に割ける時間が減少するため,定着率という点では劣ります。復習主義の塾に通っている生徒さんよりも不足するでろう演習量をどう補うかが大きな課題となります。

・知的体力が不足している子は耐えられない
メリットでもふれたように,正解がわからず疑問を抱えたまま考え続けることは大人にとっても想像以上の知的体力を必要とします。ましてやこれまでそうした習慣がなかった小学生のお子さんにとっては,ある程度の知的体力がつくまではかなり退屈か苦痛な作業になるでしょう。多くの学力上位層が復習主義の塾に移ってしまった今となっては,予習主義で大きな成果を上げることが現実的に難しくなりつつあるのかもしれません。

・短期的な成果が見えづらい
知的体力や思考力は一朝一夕で身につく能力ではありません。カウンセリングでもこのことに関してよく相談を受けるのですが,特にご家庭で日々様子を見ている保護者の方にとっては,なかなか成果が見えづらくてじれったくなることもあるのではないでしょうか。

これまでの指導経験上,予習主義の塾に通って志望校合格を果たした生徒さんの多くは,(受験偏差値という意味では)小学6年生に入ってから一気に伸びることが多いように思います。復習主義の塾に通う生徒さんの一部が,それまでは好成績でも小学6年生に入ってから極端に伸び悩むことがあるのとは対照的です。

逆に言えば,小学6年生になるまではある程度の差があるということですから,保護者の側がそうした違いを冷静に認識し,長期的視点から心の余裕を持って中学受験に臨むことが求められるのかもしれません。

どちらを選ぶべきか

以上,復習主義と予習主義それぞれのメリット・デメリットについて見てきました。現在の中学受験事情を鑑みた場合,短期決戦であれば,復習主義の塾に行った方が目標達成はしやすいといえます。 記憶の定着率や短期的成果ということを考えれば,復習主義の方に軍配が上がるのは事実ですが,本来であれば予習と復習の両方の要素を備えた上で勉強を進めるのが理想的なのは言うまでもありません。実績についても,上述の通り以前は四谷大塚にいた学力上位層がサピックスに移ったことで,このような結果を招いたとみなすことも可能でしょう。

私はこれまでの多くの生徒さんを指導してきて,お子さんの性格や個性を考えず実績や効率性だけで塾を選んでしまい,最も重要な最後の1年で問題が起こるというケースを数えきれないほど見てきました。いくら素晴らしい合格実績があるからといって,そこに入れば誰もが志望校に合格できるわけではありませんし,お子さんとの相性の問題もあります。保護者の側には数字に踊らされずお子さんの意思や適正を慎重に見極める必要があるといえるでしょう。

入塾してみてやっぱり合わないという印象を持ったときは,思い切って転塾するという決断をした方が結果的にはいいかもしれません。有名塾からの転塾は,負けたような感じがしてなかなか言い出せないお子さんも多いので,必要に応じて保護者の方が上手く促してあげる必要があるでしょう。

特に中学受験においては,お子さんに適していてさらに本人が納得する塾を選び,保護者はその決断を尊重し,可能な限りサポートしながら二人三脚で志望校合格を目指さなければなりません。
結果はどうあれ,悔いのない時間を過ごせるよう,じっくりと考えて決めていただければ幸いです。

どの塾を選ぶにせよ,入塾前に身につけておきたい能力・習慣というものは存在します。詳細は以下の記事をご覧ください。

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