【高校数学】新学習指導要領における高校数学の学習内容の変化と共通テストへの影響について

教育

2022年度から高校では新学習指導要領に沿った授業が開始されますが、2020年10月21日のNHKの報道を契機として、2025年度に実施される共通テストに関する情報に注目が集まりました。なぜ2025年度かというと、新学習指導要領の元で、現中学2年生が受ける最初の共通テストだからです。ただ、記事を見ると、

国語や数学などに並ぶ教科に「情報」を新設する検討案がまとまったことがわかりました。案では、7教科21科目が示されていて、今後、関係団体の意見を踏まえ決定されるということです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201021/k10012673231000.html

との記述がありました。これでは「情報」の新設と7教科21科目という案があたかも決定事項であるかのような誤解を与えかねません。

これに対して大学入試センターは、2020年10月23日に注意を喚起する文書をHPで発表しました。この発表によると、令和7年度(2025年度)からの大学入学共通テストの出題教科・科目等についてはあくまで検討中、とのことです。

一部からは、NHKの報道内容は、2020年10月20日に大学入試センターから「全国都道府県教育委員会連合会会長」などに送られた「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入学共通テストの出題教科・科目等の検討状況について」と呼ばれる文書に基づいているのではないかという話も出ていますが、真偽のほどは定かではありません。

共通テストの出題教科・科目は、受験生にとって非常に重要な情報であり、当分先のこととは言え、気になっている人も多いでしょう。そこで今回は、新学習指導要領で高校数学の履修範囲はどのように変わるのか、そしてその変化が共通テストに与える影響について考えてみたいと思います。

なお新学習指導要領の詳細については、文科省のHPで確認可能です。

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新学習指導要領での履修範囲

まず、各科目の新学習指導要領での履修範囲と主な変更点について今一度確認しておきましょう。数Ⅰ・数Aに関しては、大きな変更はありません。

数学Ⅰ(3単位)

  1. 数と式
  2. 図形と計量
  3. 二次関数
  4. データの分析

数学Ⅱ(4単位)

  1. いろいろな式
  2. 図形と方程式
  3. 指数関数・対数関数
  4. 三角関数
  5. 微分・積分の考え

数学Ⅲ(3単位)

  1. 極限
  2. 微分法
  3. 積分法

【変更点】

  • 「平面上の曲線と複素数平面」を「数学 C」に移行
  • 標準単位数が5→3に減少

数学A(2単位)

  1. 図形の性質
  2. 場合の数と確率
  3. 数学と人間の活動

【変更点】

  • 「数学活用」の「数学と人間の活動」を移行
  • 「整数の性質」は「数学と人間の活動」に含まれる

数学B(2単位)

  1. 数列
  2. 統計的な推測
  3. 数学と社会生活

【変更点】

  • 「ベクトル」を「数学C」に移行
  • 「確率分布と統計的な推測」を「統計的な推測」に名称変更
  • 「数学活用」の「社会生活における数理的な考察」の「社会生活と数学」及び「データの分析」を「数学と社会生活」に移行

数学C(2単位)

  1. ベクトル
  2. 平面上の曲線と複素数平面
  3. 数学的な表現の工夫

【変更点】

  • 数学Cを新設
  • 「数学活用」の「社会生活における数理的な考察」の「数学的な表現の工夫」を移行
  • 「数学的な表現の工夫」にさりげなく「行列」が復活

総括

主な変更が行われた科目は数Ⅲと数A・B・Cです。単位数だけ見れば、数Ⅲの単位が2減ってその分が新設された数Cに回ったわけですから、差し引きゼロとなっているようにも見えます。しかし、ベクトルが数Cに移行したというのが肝です。後述のように、これが色々と厄介な問題を引き起こす火種となるかもしれません。

履修順序

ベクトルが数Cに移行してしまうことを受け、一部から「文系の高校生がベクトルを学習しないまま大学に進んでしまうのではないか」という懸念の声があがっています。文系・理系という区別をそろそろ撤廃すべきでないかという議論はさておき、個人的には、文系学部志望者だからと言ってベクトルを全く学ばずに大学に進んでしまうのはいかがなものかとは思います。しかし、高校生全員が何が何でもベクトルを学ばなければいけないのかと言われると、それはそれで難しいところがあるのも事実です。

また、誤解している人も多いようなのですが、ベクトルを学習するか否か大学側の意向と高校側の裁量で回避できる問題でもあります。というのも、文科省が公表している指導要領によると、履修の順序について以下のように示されているからです。

  • 数Ⅰ・数Ⅱ・数Ⅲ:原則としてⅠ⇒Ⅱ⇒Ⅲの順に履修
  • 数A:原則として数Ⅰと並行あるいは数Ⅰ履修後に履修
  • 数B・数C:原則として数Ⅰ履修後に履修

つまり、数B・数Cについては数Ⅰの履修後であれば履修順序は問わない、ということです。それなら、そもそも数B・数Cを分ける必要がないのではないか、と思わなくもありませんが、最大限好意的に解釈すれば、高校側の裁量に任されていると考えることもできます。

まあ、高校側の裁量といっても、結局のところは大学側が入試の出題範囲をどのように設定するかに依存しますから、文・理を問わず、高2では数Bの「数列」と数Cの「ベクトル」を学習する(つまりこれまで通り)という可能性も大いにあるわけです。いずれにしても、重要なのは高校3年間という限られた時間で何を学習するのか、その優先順位付けや判断であり、何でもかんでも詰め込めばいいということではありません。

いくら制度の不備を指摘しても、新学習指導要領が改訂されるわけではなく、建設的な議論はできません。新学習指導要領を受けて、どのような教育を行うか、各高校の力量・判断が試されるとも言えるでしょう。

共通テストへの影響

さて、ここからは新学習指導要領が共通テストにどのような影響を与えるのか考察していくことにしましょう。数学Ⅰと数学Ⅱの内容にはほとんど変更がないため、ここでは、「数学Ⅰ・数学A」と「数学Ⅱ・数学B」という区分がどう変化するか、について考えていきます。なお、対象となるのは2025年度(令和7年度)の共通テストです。上述の通り、「2020年時点で中学2年生の生徒が現役生として受ける共通テスト」と考えてください。

まず、現在の共通テストでは「数学Ⅰ・数学A」と「数学Ⅱ・数学B」の2つに分かれているのに対して、2025年度共通テストでは「数学Ⅰ・数学A」と「数学Ⅱ・数学B・数学C」という区分になると思われます。「数学Ⅰ・数学A」に関してはほとんど影響がなさそうですが、問題は単純に分量が増える「数学Ⅱ・数学B・数学C」です。選択問題について考えると、数Bの「数学と社会生活」と数Cの「数学的な表現の工夫」を除いたとしても、

  • 「数列」
  • 「統計的な推測」
  • 「ベクトル」
  • 「平面上の曲線と複素数平面」

という4項目が残ります。ここから生じる主な問題は以下の2つです。

  1. 選択問題に「平面上の曲線と複素数平面」を加えるのかどうか
  2. 選択問題の解答数は2問か3問か(=3問中2問選択にするのか4問中3問選択にするのか)

第一に、選択問題に「平面上の曲線と複素数平面」を加えてしまうと、文系学部を目指す生徒にとってはカリキュラム的に厳しくなるでしょう。また、浪人生にとっても不利になる可能性があります。

第二に、もし「平面上の曲線と複素数平面」も加えて4問中から3問選択という形式になると、実質的に文系志望の生徒には選択の余地がなく、「数列」「統計的な推測」「ベクトル」を選ぶしかなくなるでしょう。これでは選択問題にする意味がなくなってしまいます。それに加えて、3問選択形式にした場合、「数学Ⅰ・数学A」のように「数学Ⅱ・数学B・数学C」の試験時間を現行(「数学Ⅱ・数学B」)の60分から70分に延長したとしても、今のような分量の選択問題を3問解くのはどう考えても時間的に厳しいと言わざるを得ません。

一方、2問選択形式にすれば、大学と高校の裁量で数Bの「数列」「統計的な推測」、数Cの「ベクトル」の3項目のうち2項目を集中的に学習して対応するということも可能になります。もちろん「平面上の曲線と複素数平面」も含めたすべての項目を学習するのが理想的であることは言うまでもありませんが、残念ながらそれは現実を無視した理想論というものです。

以上のような点を考慮すると、以下のような形にするのが現実的かつ妥当だと言えるのではないでしょうか。

数学Ⅰ・数学A

  • 必答問題:数学Ⅰから2問
  • 選択問題:数学Aの「図形の性質」「場合の数と確率」「整数の性質(数学と人間の活動)」から2問選択

数学Ⅱ・数学B・数学C

  • 必答問題:数学Ⅱから2問
  • 選択問題:数学Bの「数列」「統計的な推測」、数学Cの「ベクトル」から2問選択

共通テストに関してはこれからさらに検討が行われるでしょうから、状況の推移を注意深く見守りたいと思います。

まとめ

今回は新学習指導要領における高校数学の学習内容の変化と共通テストに与える影響について考察しました。

新学習指導要領では数Cが復活し、ベクトルだけでなく数Ⅲの内容の一部が数Cに移行しています。細かく見れば個人的に色々と思うところもありますが、数Cで行列がさりげなく復活したところは評価できるポイントかなと感じました。私が高校生だった頃は数Cがあって、そちらで二次曲線や行列も学んだので懐かしい思いもあります。ただ、学習内容はこれまでに比べるとかなり盛り沢山なことになりそうですから、高校はある程度の取捨選択を迫られることになるかもしれません。

履修の順序に関しては、ある程度の柔軟性が確保されており、高校側の裁量で判断できないこともなさそうです。まあ上述のように、結局は大学側の出題範囲設定に依存する部分が大きいのでしょうけれど…

共通テストに関しては、まだまだ未知数の部分が多いのですが、結局は現状維持という線で落ち着くのではないかと思います。また続報が入り次第、取り上げる予定です。

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