暗記は2つの視点・2種類の知識に分けて攻略

学習法

「暗記」は昔から多くの人が苦手とする人が多く、「記憶力が悪くて…」という声もよく聞きます。しかし、本当に暗記が苦手だという人は記憶力が悪いのでしょうか?暗記が苦手という人も趣味に関すること、たとえば好きなゲームやマンガの登場人物、アイドルの名前などはすぐに(しかも完璧に)覚えてしまいます。関心の有無もあるのでしょうが、そもそも記憶力が悪いということではなさそうです。

それでは、暗記が苦手になってしまう原因は一体何なのでしょうか。暗記が苦手な生徒さんを見ていると、暗記に対する認識(出発点)と方法(道)の2つを間違えている人が多いことに気づきました。いくら意欲があっても、そもそもの出発点が間違っていれば目的地にはたどり着けませんし、道を間違えてしまったら目的地にたどり着くまでに余計な時間がかかってしまいます。暗記が苦手な人は、まず暗記に対する認識と方法を改めるべきなのです。

そこで今回は、暗記の対象となる知識を2つの視点で捉え、2種類に分類することで暗記をどう攻略すればいいのかを考察してみたいと思います。暗記には特別なセンスや閃きなど必要ありません。方法さえわかってコツコツと努力を積み重ねれば誰もが得点源にできます。これを苦手にしたまま受験に挑むなんて、もったいない話だと思いませんか?

ちなみに、絶対に忘れてはならない暗記の大前提があります。それは「人間は忘れる生き物である」と言うことです。前日にしたことすべてを細部に至るまで完璧に覚えている人などまずいません。一生懸命覚えようとしても、次の日に半分くらい忘れている生き物なのです。脳がそう言う構造になっているわけですから、いくら文句を言ってもどうしようもありません。その前提に立って、「どうやって脳に錯覚させるか」、その対策を考えることが大切です。

この記事では、まず「暗記したと言える段階」について説明した後、知識を「2つの視点から2種類の知識に分類」して考察し、「暗記に適した時間帯」を紹介していきます。

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暗記したと言える段階

2種類の知識について説明する前に、そもそも「暗記した」とはどういう状況なのか考えてみましょう。どうもこの暗記したという段階についての認識が個々人でバラバラなことが、暗記に関する話をややこしくしている原因のようです。暗記における段階を大きく3つに分類すると以下のようになります。

  1. 無意識的段階(非自覚的段階):何となくわかる
  2. 意識的段階(自覚的段階):問題文をしっかり読み、時間をかけて考えれば思い出せる
  3. 無意識的段階(条件反射的段階):問題文を読んだ瞬間、条件反射的に答えや解法が思い浮かぶ

暗記が苦手という人は、1か2の段階で「暗記した」と思って終わりにしている場合がほとんどです。この段階ではまだ知識は「あやふやな状態」であり、定着しているとは言えません。ここで手を止めてしまうと、すぐにどこかに消えてしまいます。せっかく勉強しても、試験本番など肝心な時に役に立たないのです。試験などで成果を出すためには、3の段階英単語で言えば単語を見た瞬間に意味が即答できるようなレベルまで到達しておく必要があります。

1や2の段階は割とすぐに到達できるのでそこで油断して終わりにしてしまう人が多いようです。2から3の段階にステップアップするためにはそれ相応の量をこなす、つまり何度も復習する必要があります。何度も復習と聞くとそれだけでやる気をなくしてしまう人がいるようですが、1回1回の復習に時間をかける必要はありません。たとえば定期試験対策であれば、2週間前から始めて毎日10〜15分やるだけで十分効果はあります。

試験前の一夜漬けはお勧めできません。仮に一夜漬けで3の段階になって試験を乗り切れたとしても、それは短期記憶に過ぎず、試験後しばらく経つと跡形もなく消えてしまうからです。短期記憶から長期記憶に変換して定着させるためには、質の良い睡眠や復習などを行った上で、一定期間かけて取り組むことが必要となります。そもそも一夜漬けが通用するのはせいぜい学校の定期試験までです。受験では一夜漬けでは到底間に合うはずもありませんから、何年も前から計画的に準備しなければいけません。

巨視的な視点から見た構造的な知識の暗記

巨視的(マクロ)な視点から見た構造的な知識とは、大きな視点から見た解法の手順やその構造に関する知識のことです。こうした知識は必ずしも細部の数字や文言まで覚える必要はありません。というか細部を覚える必要がないのです。問題によって、同じ構造でも数値や言い回しなどの細部は変わりますからね。問題集の解説と一言一句同じ表現で覚える必要はなく、自分の言葉で再現できれば問題ありません。重要なのはあくまで流れです。

この知識に該当されるものとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 数学:応用問題や受験問題の解法
  • 英語:英文解釈、長文読解
  • 歴史:各時代ごとの流れの把握など

「数学は暗記で解ける」と言うと、「問題と解答を丸暗記すること」だと誤解する人が多いのですが、そうではありません。この場合の「暗記」とはこの「解法の構造(=構造的な知識)を理解した上で暗記すること」を指しているのです。問題と解答を丸暗記しているだけの人は、ちょっと言い回しを変えたような問題や捻った問題には歯が立ちません。この知識は問題を解く際に重要な役割を果たすパターン認識にもつながります。

目標は、問題文を読んだ瞬間、頭の中のホワイトボードに解答に至るまでの流れが浮かぶようになることです。これができるようになれば、模試や実際の試験で問題が出題されたときにすぐ解法を思い浮かべられるようになります

構造的な知識を暗記する際は、次にご紹介する構成要素となる知識と違って、毎日やる必要はありません解法が複雑ですぐに理解することも多いため、少し時間をかけて取り組むと良いでしょう。「翌日→その3日後→その7日後」と言うように、少し間隔をあけて取り組むと良いと思います。また、いつも手を動かす必要はなく、以下のような方法も有効です。

  • 解答の一部を隠してその部分を再現できるか試す
  • 問題文を見て頭の中でおおよその流れを組み立てる

微視的な視点から見た構成要素となる知識の暗記

微視的(ミクロ)な暗記から見た構成要素となる知識とは、細部まで完璧に覚えていなければいけない知識のことです。既に見た構造的な知識の構成要素となる知識だと言うこともできます。ちょっと間違えただけでも失点につながりますから、少しのミスも許されません素早さだけでなく、精度をとことん追求することが大切です。

この知識に該当するものとして、たとえば以下のようなものが挙げられます。

  • 英語:英単語の意味や綴り、英文法など
  • 数学:定義や公式の使用方法、計算
  • 国語:漢字や言葉の意味
  • 化学:元素記号や元素の性質
  • 歴史:人物名や歴史上の出来事

いちいち挙げていくと切りがありませんので、自分の勉強している教科ではどれがこちらの知識に該当するだろうかと言うことを各自で考えてみてください。

これらの知識は、「暗記したと言える段階」で説明した「3」の段階まで持っていく必要があります。そのためにはどうしたらいいのでしょうか。スポーツや音楽の練習と同じで、毎日コツコツと取り組み、身体に叩き込むのみです。つまり毎日の基礎練習が欠かせません。

さらに重要なのが、1個1個の暗記に時間をかけるのではなく、毎回なるべく全体に目を通すようにするということです。たとえば、英単語を100個暗記しなければいけない時、暗記が苦手な人の多くは時間をかけて毎日5〜10個ずつ単語を完璧に覚えようとします。その結果、1週間後には1日目に覚えたはずの単語をきれいさっぱり忘れていることに気づき、「あんなに頑張ったのに」と落胆してやる気を失ってしまうのです。

それに対して、暗記が得意な人の多くは毎日100個に目を通します。暗記が得意な人は忘れることを前提にして暗記計画を組み立てるため、次の日に半分以上忘れていても気にしません。むしろそれが自然なことだからです。その代わりに、短い時間で何度も何度も反復練習してすべての英単語に目を通します。こうすることで、3〜4日目にはかなりのスピードで全体に目を通すことができるようになりますし、定着率も上昇してくるでしょう。定着率が上昇するにつれて、スピードも上がりさらに効率的に覚えられるようになるという好循環を生み出すことができるのです。

脳は生存に必要と思われる情報を優先的に覚えるようにできています。はっきり言って、英単語は生存には必要ありません。ですから優先順位が低く設定されているのです。ではどうすれば優先順位を高くすることができるのか。その答えは、「脳に重要な情報だと錯覚させればよい」です。毎日毎日同じ情報を送り込むことで、脳に重要な情報だと錯覚させることができます。

電車に乗って通勤・通学している人が、家から学校や職場までの行き方をいつも調べてから家を出ることや、そもそも目的地までの行き方を忘れてしまうようなことはまずありませんよね?ほぼ毎日同じルートで通勤・通学することで、脳はその情報が重要であると認識し、無意識に体が動くようになっているのだと言えます。これと同じ作業を自分が覚えたい知識に対して適用すればいいわけです。継続することは難しいことですが、作業自体は大したものではないと言えるのではないでしょうか。

学校の定期試験のための勉強をしている生徒さんによくいるのですが、「1週間に1日、2〜3時間かけて1科目の暗記をしようとする」のはまったくナンセンスです。そんなことをするくらいだったら1日10〜15分でもいいから7日間続けてやった方がはるかに効率よく暗記することができます。人間は忘れる生き物だと言う大前提を忘れないようにしましょう。

暗記に最適な時間帯

ここからは暗記に最適な時間帯について考えていくことにしましょう。

最初に暗記に関する大前提として、「人間は忘れる生き物である」ということを紹介しましたが、実は他にも重要な基本知識があります。それは「脳は睡眠中に記憶の整理・定着作業を行っている」ということと「脳は寝る直前の記憶から遡って整理していく」ということです。

これらの基本知識から導かれる暗記に最適な時間帯は「寝る1時間前」です。

なぜ1時間前かというと、「新鮮(忘れる前)かつ余計な情報」が脳に入ってくる前に睡眠をとることで、暗記学習の効果を最大限に引き出せるからです。「鉄は熱いうちに打て」ではなく、「記憶は熱いうちに寝ろ」といえます。

たとえば午前中に暗記をしたとしましょう。すると、寝るまでの間に忘却が進行しますし、午後・夜で脳には膨大な量の情報が入ってきます。午前中に学習したことの多くは忘れるか、整理が困難な状況になってしまっても不思議はありません。寝る直前に暗記学習をし、余計な情報が入ってこないうちに寝ることで、まさに暗記をしたい情報から脳が整理・定着作業を始めてくれるのです。

さらに、寝る1時間前を暗記学習にあてることには別のメリットもあります。というのも、睡眠の質に関する研究によれば、寝る1時間前からスマホやパソコンの画面などブルーライトを発するものを遠ざけることで、睡眠の質が向上することが報告されているからです。睡眠の質が向上すれば、日中の集中力や勉強効率がアップします。まさに一石二鳥と言えるでしょう。

寝る1時間前の時間帯を暗記学習に使おうと思った方は、まず翌朝起きてすぐに前夜の復習をするようにしましょう。そうするだけで、記憶の定着効率をさらにアップさせることができます。

最後に

今回は暗記とは何かということについて、暗記したと言える段階についての話から、暗記対象となる知識を2つの視点で2つの知識に分類して整理し、暗記学習に最適な時間についても紹介しました。

「暗記以外の勉強の復習方法も今回の話をベースに考えればいいのではないか」ということに気付いた人も多いはずです。復習のタイミングについて気になっている人もいると思いますので、これについてはまた別の機会に考察したいと思います。

今回の記事が暗記を苦手としている人のお役に立てば何よりです。

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